教員紹介 ~数理物質系教授(理工学群長) 宮本雅彦先生

-宮本先生はどんな高校生だったんですか?
Prof.miyamoto英語以外の授業では、数学の問題を考えていることが多かったですね。解けないとわかっている数学の問題について、なぜ解があるのに解けないということが起こるのかということをずっと考えて、色々な曲線を書いていました。学校の数学、受験用の数学は考えるというよりは解答を探すということが多く、解答方法は簡単に気付くので、つまらなかったですね。
数学と比べて、英語は本当にできなかったです。記憶力と呼ばれるものが完全に欠落していたようです。英語の先生は、「何で数学や理科があれほど出来るのに英語ができないのか?」と不思議だったようで、授業ではしょっちゅう僕にあててくれ、前に呼ばれては読まされたりしていました。そして、みんなの前で間違えて大恥をかいていました(笑)。授業を聞いていないと、すぐにあてられるので、英語だけはちゃんと授業を聞いていました。一番、僕の事を見てくれていた先生だと感謝しています。
-なぜ数学科を選んだのでしょうか?
工学も好きでしたが、数学以外の才能がなかったというのが真実でしょうね。大学の仲間に数学を続けるかどうかを悩んで、医学部を受けなおす友人が数名いたけど、「お前は、数学しか才能がないから、悩む必要がなくていいな」と言われたこともあります。実際、僕も余り悩んでいませんしね。
大学3年生になったときに、当時院生だった先輩が話してくれた数学の証明が面白く、その方の指導教員で、講義も独特で楽しかった先生に「大学院のセミナーに参加させてください」とお願いしたら、400ページの英語で書かれた数学の専門書を渡され、「これを半分まで読破できたら参加してもいいですよ」と言われました。最初のうちは何が書いてあるのか全くわからず、ただただ毎日3,4ページほど訳していきましたね。ところが、100ページ目ぐらいを訳しているときに、突然、頭の中で最初の1ページに書いてあった事の意味が浮かんできたのです。びっくりしましたね。そして、200ページ読み進めた時には、今読んでいるページの意味が分かるようになっていました。多分、脳の神経回路がその分野仕様に組み直されてきたのだと思います。
-数学をやるために必要な力とは?
数学をやるには、考え続けるための体力や気力が必要です。でも、数学の研究者になるために一番大切なのは、好奇心と想像力だと思いますよ。まあ、これらは数学だけではなく研究者になるには必要な力ですね。人と違った見方や、新しいアイデアが出ないと研究者にはなれないわけだから。学生を教育する上で、計算力や知識は強化できるが、どうやったら想像力やセンスを伸ばすことができるかは私も良く分からない。でも、知らない事に何でも好奇心を持てたら想像力はつくと思います。
それから、数学は、自然科学の中でも最も英語力が必要な学問だというのを数学科に進んでから知りました(笑)。 日本語の国際雑誌は無いし、実験系の論文に比べて、数学の論文は長いですよ。僕の論文の中で、一番気に入っている論文は60ページあるので英語で書くのは大変でした。しかも、図表は全くない。
-海外でも教えられていますが、日本とアメリカの学生に違いはありますか?
アメリカの学生は、子供のときからディベートやディスカッションなど論理力の訓練をしています。その論理力の上に、高校に入ってから、数学の知識を重ねていきます。それに比べると、日本の学生は、知識だけを積み上げてしまっている人がかなりいますね。知識はあるけど論理力が弱い。これだと、木にたとえると、根っこがないまま枝が出ている状態で、大きな花を咲かせられない。知識や計算力だけで数学が出来ると誤解して大学の数学科に入ると後が大変です。論理的な思考力、抽象力も鍛えておいてください。
-GFEST生へのメッセージ
僕から見てもGFESTに参加していて、幸せだなあと思いますよ。僕の時代に、これがあったら、間違いなく参加していて、もっと広い視野を持てたし、英語も本気で勉強していたと思います。興味外の事にも関心を持ってと言いましたが、GFEST生には是非、たくさんの本を読んでもらいたいと思います。科学に関係する本も、しない本も、ともかくたくさん読んで欲しい。僕は、推理小説、歴史小説、考古学、百科事典などを、手当たり次第に読んでいました。1冊の本に感動するのも良いですが、感動無しに多読するのも研究者を目指す生徒には良いことだと思います。10年先にそれらが君たちの体内で発酵して君たちの血と肉になります。インターネットで今欲しい細切れの知識を手に入れるのではなく、今必要のないと思われる事が書かれた沢山の本を読んでほしい。本を読むと、好奇心が広がるし、いろんな考え方を知ることができ、自分が賛成する・反対する意見にも出会うでしょう。そうやって、自分の考えを深めていって欲しいと思います。
●筑波大学理工学群HP