2015年の地理オリンピックはロシア・トヴェリ州で開かれました。国際大会は、テストだけでなく、文化交流など、本当に楽しめました。それに参加した経験を基に、今回の挑戦の過程で役立ったこと、反省点、学んだことなどを以下にまとめました。
1 地理オリンピックへのアプローチ / 国内予選/大会概要
2 国際地理オリンピック:ライティングテスト
3 国際地理オリンピック:フィールドワークテスト
4 国際地理オリンピック:マルチメディアテスト
5 国際地理オリンピック:文化交流
6 その他
7 参加賞として供給されたもの
8 テストで用いたもの
9 使用した参考書
1. 地理オリンピックへのアプローチ / 国内予選/大会概要
国内予選では、一次試験ではマルチメディアテスト(MMT)、二次試験ではライティングテスト(WRT)、三次試験ではフィールドワークテスト(FWT)が課せられる。短期に集中して3つの試験があるので、僕は各試験を通過したと分かったら、すぐ次のテスト対策を集中的に行うように心がけた。僕が実践した対策法は以下の通り。
①マルチメディアテスト対策としては、国内予選の過去問、世界大会の過去問、センター試験の過去問、駿台のセンター実戦問題集(←解説が細かいので自習しやすい)を使用した。
②ライティングテスト対策は、国内予選の過去問、東京大学の入試問題過去問を使用した。
③フィールドワークテスト対策は、京都大会の過去問の確認(←珍しくフィールドワークテストの採点基準を公表している)のほか、近所の街に出かけての土地利用図の作成を行った。フィールドワークテストは1と2に別れ、1はフィールドそのものに関するテスト、2は都市計画、プラン作成のテストとなっている。国内の3次予選のフィールドワークテスト1では、2014年、2015年ともに地形断面図の作成と土地利用図の作成が課せられた。
国際大会に向けて、最も苦労した点は日本における地理の範囲と、国際基準の地理の範囲で若干の差異が認められることだった。国際基準の地理は、地理B(主に系統地理、地誌は少し)と天文以外の地学、フィールドワークがその範囲であり、未習分野を一から学ぶのに時間がかかった。使用した参考書のリストは後述。
さて、国際大会では、英語ができた方が多少優位であることは今年も同じであった。特にFWT2でその傾向が見られると思う。とはいうものの、ネイティブは更なる時間制約が課せられるのでネイティブに有利な試験かどうかは疑わしく、もっとも得をするのは「英語がペラペラの非ネイティブ」だと僕は勝手にそう解釈している。これは、東欧やシンガポールが強豪である一因かもしれない。僕自身は国際大会に向けて、英語の勉強はやってもやっても足りなかったが、それでも力を入れて勉強したことに意味があったと思う。
2.国際地理オリンピック:ライティングテスト
Day2, 10:00—13:10
受験記録
僕が受けた教室には40人程度のメンバー、試験管が3名程度。机の上には必要なもののみを置き、バッグは一カ所に集められる。Question-Answer bookletとResource bookletと水(←今年の試験会場の環境では重要だった)が配られた後、10分間、Resource bookletの黙読時間(一応)が与えられる。「一応」と書いたのは、僕らは2つの冊子どちらも目を通すことができたからである。10分後、スタートのコールがあってテストが始まる。
冷房がついていたかどうか疑わしい受験会場は、徐々に高温多湿になり、汗が冊子に滴るほど。また、毎年WRTは大会開会の翌日にあるので想定はしていたが、長旅の疲れが完全にとれていたとは言い難く(個人差あり)、コンディションは全体としてあまり良いものでは無かったが、これらの条件は受験生の多数に対して当てはまる。つまり、目眩いがしても答えが書ける程度の気力が理想だと感じた。
問題内容について。大問ごとにウェイトが異なっていること、また12:30くらいになるとヘトヘトになっていることを考えると、自分がそうしたように、開始早々猛スピードで書き始めることも悪くないかもしれない。
設問研究・解法研究
自然地理と人文地理が同量程度出ているのは例年通りだったが、大問タイトルの括りは狭くなっている。例えば、今年度の第1問のテーマはWeatheringだったが、これは2012年度第5問のriverや、2014年度第1問のGeology and coastal landformと比べると、GCSEの参考書の記述は1ページ程度で、そこまで多くない。大問の作り方が、「広く浅くから狭く深く」へと移行した。
全体を通して、解答作成の際にGCSEなどに用いられている単語が必要になる場合が多かった。特に自然地理分野に関してはその傾向が強く、「知らないから書けない」という局面に陥らないために、英語の参考書を用いた学習は有効だと思われる。
自然地理の範囲に関して、国際大会の基準では日本の基準と違うことは既知のことで、国際大会での基準(≒GCSEの自然地理の範囲)は次のように画定できる。「地理Bの自然地理の範囲+地学基礎の天体以外」。
アルベドや熱塩循環の話が地学基礎の教科書に載っているので、地学履修者以外の生徒も過去問題を解く際に参照するべきだと思う。なお、あくまで日本の教科書は、概念を掴むための補助教材として使用し、メインは英語の教材がいいと思う。
3. 国際地理オリンピック:フィールドワークテスト
Day3,12:00~15:00
FWT1: Tests on the field
受験記録・設問研究・解法研究
朝8:30、行き先が告げられないまま、4つのグループに分かれてバスに乗車。3時間ほどで着いたのは、スターリツァという、あまり繁栄していないらしい観光都市だった。フィールドでは4カ所を廻って各地点で一つずつタスクをこなしていくもの。タスクは12時開始で3時まで行われ、間に昼食休憩は無かった。つまり、この日は朝食が7:30、昼食が16:00というスケジュール。長いバス旅からそのままタスクを4つこなすには、かなり体力が奪われた。去年もそうだったと耳にしたが、FWT1は体力勝負の面があるらしい。
タスクは、人口密度の計算、地形断面図と岩石の特定、土地利用図の作成、昔の写真と今の景観を見ながら差異を認識する作業の4つで、各30分で行われた。地理オリンピックはどの試験も時間制約が厳しいのが常であり、かなり頑張ったつもりだが時間が余らなかった。反省点として真っ先に挙げられるのが、土地利用図に方角を書き忘れたことで、これは以後本当に気をつけたい。
各タスクは質問意図がとても明快であり、簡単じゃないけど面白かったと選手ウケがよかった。また、この日は曇り時々雨であり、降雨によってテストの難易度が多少上がったと思う。今年は選手に対してレインコートとポンチョが配られていた(国際大会の参加賞で様々なものが配られる。今年配られたもののリストは後述)ので被害は小さかったかもしれないが、折りたたみ傘があると解答用紙が濡れないので便利だったかもしれないと感じた。また、雨が降っていてもタスクを続ける気力は必須だと改めて思った。
最後に、億劫に感じるかもしれないが、辞書を持っていって正解だったと思う。一つは単語を調べるためで、もう一つは精神安定剤として。僕は野外でのテスト中に数回引いた。
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Day4, 10:05~12:45
FWT2: Decision making test
受験記録
時間にルーズなお国柄の方が多いため、テストは若干遅れて開始。チェコ人曰く「That’s traditional.」ということらしい。受験会場はWRTと同じ。ただ、この時のテスト会場はそこまで蒸し暑くはなかった。受験スタイルもWRTに似る。最初にResource bookletに目を通す時間が20分与えられ、その後、2時間20分で大問3つ。黙読時間に感じたことは、英語の速読訓練の重要性で、20分で読むには少し量が多いかもしれない(個人差あり)。僕はちょうど一周読み終わったところで時間切れになり、読み返す時間は無かった。試験中は、とにかく書かせるテストなので、手が疲れたことがよく記憶に残っている。2014年の500 wordsの論述ほどではなかったが、それでもたくさん書いたと思う。文法は気にしない方針で大丈夫、ということである。
設問研究・解法研究
都市勢力圏の作図が1題、都市プランの問題が2題。
勢力圏の問題は、Resource bookletに解答手順が載っており、それを参考にして解答を作成するものである。比較的容易であると思われるが、定規がないと解答できないので注意。解答に必要な文房具について事前にアナウンスが無いので、各自で何が必要か考えなければならなかった。僕が使用した文房具リストは後述。
都市開発プランの問題について。Resource bookletには解答に盛り込むべき要素が多く含まれている。例えば「住宅供給が住民のニーズにあったものでない」「文化財に指定された遺跡が数多く存在するが、今は観光用にも使われていない」といった情報が記載されており、これらを無視した解答作成は点数になりにくいのではないだろうか。言い換えれば、忠実にResource bookletの内容を追っていくと、解答の方向性がある程度定まるのだと思う。ところで、国内の3次予選では、このResource bookletをまともに読む時間が無かった(他の選手も言っているので間違いないはずである)。50分の試験時間に大問3つでは、さすがに厳しいと思う。国際大会でResource bookletに目を通せたのは先述の通り、黙読する時間20分間が与えられたからである。しかしどんな試験であっても各選手に課せられる条件は同じなのだから、臨機応変に対応することが大切だと感じた。
4.国際地理オリンピック:マルチメディアテスト
Day5, 11:35~12:20
受験記録
教室には10数台のコンピュータがあり、選手一人一人に割り当てられる。試験時間45分の中で、自由な時間配分で問題を解くことができた。この形式は国際大会の委員会が理想としているものである。一周目普通に解き進め、二周目を始めたところ半分くらいで時間切れになったので、そこは少し後悔。
設問研究・解法研究
例年通り、地学の要素が多く含まれた出題。例年より易化したと見られ、2014年大会のチャンピオンは、試験途中から寝ていたらしいという噂。時間がかかる問題が散見されるので、すぐ解ける問題にいたずらに時間を書けないことが肝要。国内予選でも国際大会でも、MMTは、分からない問題はわからないので、諦めの姿勢も肝心であるというのは、僕と昨年度の選手の間での一致した意見。
日本委員会の方から聞いた話だと、MMTは標準偏差が小さい(=差がつかない)らしい。国内予選でも爆発的に一次試験ができる子はいないらしい。
5. 国際地理オリンピック:文化交流
オリンピックの国際大会はどこも文化交流が盛んであるらしい。地理も例外でなく、Cultural sessionで各国のパフォーマンスを見たり(日本チームはソーラン節を踊った)、Song festivalで歌の交流をしたり(僕らは「赤とんぼ」と「上を向いて歩こう」を歌った)、手芸でロシア土産を自分で作ったりした。
また、地理では、ポスター発表会というものがあり、その時に多くの国の子が自国のお土産を配っていたので、日本もそれをすべきだったかもしれないというのが反省点だった。
特定のイベントに限らず、交流は常に行われている。1時くらいまで騒いだ夜は、おそらく忘れることが無いだろう。また、最終日のディスコでは、欧米人のダンスの巧さに圧倒されたのも印象深い。僕は東欧人の英語を聞くのが本当に苦手だったが、それでも彼らと話すのは本当に楽しかった。
どのオリンピックでも、テスト終了後の夜更かしは普通らしい。
6. 健康管理
ただでさえ良い環境かどうか分からない海外では、健康管理は本当に大切であると改めて感じた。かつて僕の恩師が「試験は、当日までの勉強が半分で、当日のコンディションが半分」とおっしゃっていて、確かに一理あると思う。今年、インド大会に参加した物理オリの選手によると、日本人5人全員が腹痛その他諸症状で苦難の日々を送ったということだ。さて、こうした状況があるため、整腸剤、酔い止め、頭痛薬、その他必要な薬の持参は必須と思われる。僕は一応様々な薬を持って行ったので重宝したが、整腸剤はもっと強いものを持っていっても良かったかも知れないというのは反省点。なお、副作用で眠くなる薬には注意が必要だと思われる。
7. 参加賞として供給されたもの
レインコート、ポンチョ、ファイル、文房具、帽子、Tシャツ、Yシャツ、リュックサックなど。
8. テストで用いたもの
シャープペンシル、鉛筆、ボールペン、色鉛筆、マーカー、定規、辞書(英和、和英の両方)、水、探検ボード(←FWT1のみ)
9. 使用した参考書
『New key geography for GCSE second edition』
テーマ別参考書で320ページくらい。出題範囲がほぼ網羅されている。英語の地理の本で何か一冊選ぶならこれが一番いいと思う。自然地理の範囲は3周くらいした。
『GCSE geography AQA A specification Revision guide』
テーマ別参考書で150ページくらい。書き方がとてもフランク。物事の概念を掴むのには適しているが、学術的ではない。
『GCSE geography AQA A specification Exam Practice workbook higher level』
記述問題集。自然地理の基礎が英語で説明できるか確認するのに向いているが、人文地理分野などは特に簡単で、やる価値があるかどうか微妙。
『Kaplan AP human geography 2015』
500ページ程度。人文地理のことが詳しく書かれている。英語に慣れるための速読教材として使っていた。
『GCSE success workbook geography』
日本委員会から配られたイギリスの問題集。簡単。あまり使っていない。
『地球学調査・解析の基礎』
GFESTで僕のチューター教員だった筑波大学生命環境系の上野先生が執筆されている本。地図の表現方法を学びました。フィールドワーク用。本番の三次試験で岩石の出題(Limestone)が出たので、岩石のところも読んでおくべきだったと思いました。
『地球学日英用語集』
地球学類で使用されている(?)地学・地理の単語集。必要なところだけ抜き出して使いました。
『村瀬の地理Bをはじめからていねいに[東進ブックス]』
日本の地理Bの市販参考書では最も良い本だと思う。国内予選1次2次向き。センター対策の本で軽視されがちに思われるが、この本を徹底的に理解すればかなりの高得点が望める。
『資料地理の研究[帝国書院]』
地理Bの選択者ならおそらく誰しも持っている資料集。どちらかというと国内予選向き。国際大会に向けて、自然地理のところはこの本も参考にした。
『センター試験地理B過去問題集/実戦問題集』『東大の地理25カ年』
MMT,WRT対策。国内でも国際でも使った。