GFEST受講生の増井真那さんとチューター教員の筑波大学生命環境系佐藤忍先生、数年間にわたって増井さんのティーチングアシスタントを務めた横浜国立大学環境情報研究院・瀬戸健介さんの共著論文が英国の学術誌Journal of Physics D: Applied Physicsに2018年6月20日付で掲載されました。
増井さんは、小学1年時から、変形菌(粘菌)の変形体の行動を観察し、小学校3年時からは、その自他認識に関する研究を継続してきました。変形菌の自他認識行動に関する研究は、これまでほとんど先行研究がありません。今回の論文では、自他認識行動の新しいモデルである「自己拡張モデル」を提唱しています。
【研究概要】
変形菌の異なる変形体が出合うと、相手によって融合したり避け合ったりします。これは、変形体が自己と非自己を見分けている(自他認識している)ことを示しています。今回の研究では、イタモジホコリPhysarum rigidumの同種異個体(同種産地違い株)どうしを自由に出合わせることによって、自他認識行動のモデルを得ることを目指しました。実験結果より、これらの変形体は、互いの細胞膜を接触させること(接触型自他認識)によってだけでなく、変形体の体を覆っている粘液鞘(粘液性の膜)に対する接触(非接触型自他認識)によっても自他認識を行えることがわかりました。この非接触型自他認識は、遭遇相手との距離に関係なく生じ、しかも接触型よりも自他判断にかかる時間が早い傾向があります。つまりイタモジホコリ変形体は、遭遇相手と融合するか/回避するかの決定を、非接触型自他認識によって直接的接触を伴わずに素早く行うことが可能であることがわかりました。
モジホコリPhysarum polycephalumを用いた先行研究によれば、その変形体の粘液鞘は、異個体や自分自身にとって忌避物質として働くとされており、そのため、変形体の異個体に対する行動は基本的に回避であるとされてきました。それに対して本研究で提案する自己拡張モデルにおいては、粘液鞘は単なる忌避物質ではなく、自己に関する情報を環境へ拡散するシグナルとして位置づけられます。
今後、自己拡張モデルの検証を進めていく予定です。現在、粘液鞘の分析を進め、シグナルの実体物質やその認識の仕組みを明らかにすることに取り組んでいます。
【題 名】
Allorecognition behavior of slime mold plasmodium―Physarum rigidum slime sheath-mediated self-extension model(変形菌の変形体の自他認識行動―イタモジホコリの粘液鞘を介した自己拡張モデル)
【著者名】
Mana Masui, Shinobu Satoh and Kensuke Seto
増井真那:東京都立小石川中等教育学校
佐藤忍:筑波大学生命環境系
瀬戸健介:筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所(現・横浜国立大学環境情報学院)
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